<8日目、2000年6月8日> 礼文島2日目・桃岩荘ユースホステル

桃岩荘 落陽 北海道の旅 2000年
桃岩荘ユースホステルへ

 9時起床。昨晩はダウンのシュラフ(寝袋)に入り早めに床についた。温度計は持ち合わせていなかったが、今回の旅で一番気温の低い夜だったはずだ。食後お茶を飲みながら昨日観光案内所でもらったパンフレットをもとに今日の見学コースの計画を立てる。公園付近の「水中公園」とフェリーターミナル香深(かふか)付近から始まる「桃岩展望台コース」が時間的に良さそうだ。桃岩展望台コースは香深から林道を2.5km歩き、約60分で桃岩展望台に到着するコースである。高山植物の群生や利尻富士の眺望を楽しめるそうだ。

 11時半キャンプ場を出発。10分程度で水中公園に到着する。岩を円形に並べてありその上を歩いて渡る簡単なものだが、透明度の高い礼文島の海を生かし水中の様子を近くで観察できる。デジタルカメラで何枚か写真を撮り、フェリーターミナル方向に戻る。途中親切に車の同乗を勧めてくれる人がいたが,体力,時間とも十分にあったため丁重にお断りした。途中の電光掲示板は気温9度を示している。だが、重い荷物のため体は汗ばむ。腕まくりをした状態でさらに前進。海岸線沿いの国道40号線を歩くが意外と車の往来が多く、かなりスピードも出している。場所にによっては道幅が狭いところもあり、ヒヤヒヤしながら端を歩く。原付オートバイに乗っている人はほとんどヘルメットをしていない。ここでは交通ルールはほとんど無視されているようだ。後で観光案内所で話を聞いたが、シーズンになると更に車の往来は増え事故も多いらしい。レンタカーを借りた慣れない観光客が年に数度海に落ちるという。

海岸線沿いにある「水中公園」

 フェリーターミナル近くの香深に到着しすぐに桃岩展望台方向に登り出す。さすがに20kg以上の荷物を背負った山登りは疲れる。礼文島には約40種類の高山植物が生息するという。林道を進みながら見かけた順にパンフレットにチェックしていく。途中何度か休憩を入れ約1時間で展望台に到着。展望台はテニスコート大の広さで、礼文島全周を見渡せる。30分ほど眺めを楽しんだが、その間に雲がかっていた利尻富士がタイミング良く顔を出し、写真に収めることができた。

 休んでいると標高が高く気温も低いせいか汗が冷えて寒い。香深から続く上りの林道コースでは一人も合うことはなかった。ほとんどの観光客は展望台付近まで観光バスか車で上がっているようだ。数台のバスと車が近くの駐車場に停まっている。

「桃岩展望台」に向かい、林道を進む
林道に生息する高山植物
雲間から「利尻富士」が顔を出した

 下山は足どりも軽く30分程度でフェリーターミナルに到着。桃岩荘ユースホステル(YH)ヘルパー(お手伝いさん)との待ち合わせ時間16時まで間があるのでターミナル待合い室で時間をつぶす。

 16時YHのミニバンが到着する。からくさ模様の派手なバンだ。すぐにYHに向かうと思っていたが、フェリーのお見送りに立ち会わせられた。フェリーで帰るYHの客を見送る儀式だ。大声で歌い、踊り出す。フェリーが見えなくなってもまだ踊っている。やっと車が出ると思ったがそうはいかないらしい。YHのヘルパーが言うには乗車した皆で大声で「発車!」と言わないと車は動き出さないという。皆で叫んでやっと車は走り出す。車の中でもヘルパーはじっとしていない。大声でのだじゃれと派手な手ぶりでYHまでのコース説明をする。途中トンネルを通るがそれは「桃岩タイムトンネル」だと言い張る。ここでは、「知性、教養、羞恥心」の3つを置いていかなければいけないという。帰りにはちゃんと持ち帰るようにとのこと。また、このトンネルを通った際に時空にゆがみが発生し、そのため桃岩荘YHの時間は30分進んでいるそうだ(実際に桃岩荘内のすべての時計は30分進んでおり,全ての告知,掲示は全て桃岩荘時間で連絡,表示されている)YHに到着してもただでは入れてくれない。また大声で「ただいま!」と言って下さいとお願いされる。

 YHの玄関の扉が開くと10人程度のヘルパーが正座して「お帰りなさい!」と返す。入るとヘルパーが建物の説明をしてくれた。YHの施設は昔のニシン番屋を改築したものだという。昔の日本人のサイズで作られているため所々窮屈だ。ベッドだけは現代人サイズに変えているという。皆ストーブを中心に,板張りの床の上で足を伸ばし集まっているので挨拶をし,その輪の中に入る。

桃岩荘ユースホステルの「送別の儀式」
フェリーが出ても歌と踊りは続く

 ストーブの周りに集まっている人の中に大型のテレビカメラを持った人がいた。聞いてみるとNHKの撮影クルーだという。桃岩荘YHを中心にしたニュースのために昨日から宿泊しているとのこと。2、3分のニュースとしてNHKニュース北海道及び、全国で放送されるらしい。自分も何度かカメラの前に立ったのでもしかしてTVに出るかもしれない。

 座っているホステラー(YHの利用者)の一人の女性がギターを片手に歌を歌いだした。素人とは思えないすばらしい歌と演奏をする。「あやのさん」は自分で作詞作曲をし数曲の持ち歌があるという。残念ながら自分には持ち芸が無いが,このような雰囲気の場では一人一芸あるとさらに楽しめるのだろう。YH内を見渡すと壁中には手書きの歌の歌詞が張られている。多分今夜自分も一緒に歌うことになるはずだ。

 そうしていると突然館内放送が流れる「ピンポンパンポン、8時間コースのお帰りです」このYHの名物に「愛とロマンの8時間コース」がある。礼文島の全長35kmを8時間掛けて徒歩で縦断するものだ。ホステラー全員が一斉に玄関になだれ込む、大きく手を振りまだ小さく見えるうちから8時間コースのグループに「お帰りなさい!」と大声で叫び、大きく手を振る。これがYHに到着するまで延々と続けられる。ヘルパーはといえば裸足で屋根に登り旗を振っているものもいればギターを弾いているものもいる。

 8時間コースのメンバーがYHに入ると入り口をほうきで丁寧に掃除していた。砂やゴミを部屋に入れないように気を使っている。きちんとゴミの分別処理もしており清潔や環境にはかなり配慮しているようだ。

「愛とロマンの8時間コースの」メンバーを歌と踊りで応援する

 また館内放送が流れる「ピンポンパンポン、19時20分(桃岩荘時間)から本日のミーティングを始めます」ついに桃岩荘YH独自のミーティングが始まる。まずは全員で踊りの教習を受ける。桃岩荘YH独自のものから始まり昔のアニメソングに振りを付けたものまでいろいろある。

 ミーティングの途中でまた館内放送「ピンポンパンポン、今期初の落陽が始まりました」また皆で外に出て今度は「落陽の歌」を歌い出す。雲に隠れずにきれいに沈む夕日を見を見られるのはかなり珍しいらしい。NHKの取材クルーはイベントのあるごとにカメラをかついで追いかける。自分もちゃっかりとカメラの前に移動し、撮影を意識しながら手拍子を打つ。

落陽を見ながら歌をうたう
落陽の瞬間をしっかりと見ることができた

 落陽が終わり,またミーティングが再開する。礼文島の町の紹介は寸劇で,歌と踊りのコーナーや昔なつかしのゲーム、フルーツバスケットをし最後はやはり壁に貼られた歌詞をギターの調子に合わせて数曲歌いミーティング終了。約2時間。その後1時間の自由時間があり少しの時間歓談をする。消灯は10時半(桃岩荘時間)。時間近くになるとカウントダウンが始まり問答無用に一斉に消灯され眠りにつかなければならい。

 さすが噂に聞くほどのYHだ。この雰囲気になじめれば最高に楽しいが、合わない人は少しつらいかもしれない。初めは多少戸惑ったが最後には無事輪の中に入り楽しく過ごすことができた。しっかりと桃岩タイムトンネルに「知性、教養、羞恥心」を置いてこられたようだ。

無事、桃岩荘ユースホステルの雰囲気になじむことができた

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